【第3話】ルール作りの苦闘
【第3話】ルール作りの苦闘
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感情に振り回されるのはもう終わりにしたい。
そう決めた僕は、自分だけの「ルール」を作り始めた。
感覚や気分で取引するのではなく、あらかじめ決めた通りに機械的に行動すれば、欲や恐怖に飲まれずに済むはずだと考えた。エントリーの条件、利確と損切りの基準、取引の回数や損失の限度。思いつく限りのルールを書き出していった。
たとえば、損切りは10pips、1回の取引で失うリスクは資金の2%以内。1日の損失は資金全体の5%までに抑える。経済指標の発表前後はトレード禁止。少しでも迷ったらエントリーしない──そうした細かい基準を次々に決めていった。
最初のうちは、このルールがとても効果的に思えた。
迷うことが減り、エントリーや決済も以前より落ち着いてできるようになった。
チャンスが来たら、即座にエントリー。
条件に合わなければ、じっと待つ。
これまでできなかった「待つ」という行動が、ようやく少しずつ身につき始めた。
結果も少しずつ良くなっていった。
大勝ちはないが、少しずつ利益が積み上がり、負けた日も許容範囲で収まるようになった。
何より、毎晩の寝つきが以前とは違っていた。今日もルールを守れたと思えるだけで、少しだけ自分に自信が持てた。
けれど、順調に思えたのはほんのわずかな期間だった。
ある日、立て続けに損切りが続いた。
ルール通りの損切りではあったが、積み上げた利益がじわじわと削られていくのを見るのは苦しかった。
「このまま負け続けたら、また全部失ってしまうのではないか…」
焦りが顔を出し始める。
「今回は特別だから、少しだけロットを増やそう。」
「この相場なら、もう少し損切り幅を広げても大丈夫な気がする。」
ほんの少しだけ、という気持ちが徐々に膨らんでいった。
そして、ついにルールを破ってしまった。
大きなロットでエントリーし、損失を一気に取り戻そうとしたのだ。
これまで何度も誓ったはずだった。
「取り返そうとするトレードだけは絶対にしない」と。
しかし、その日は冷静さを失っていた。
ポジションを持った瞬間から心臓の鼓動が早くなり、画面の数字に釘付けになった。
そして、またしても相場は逆に動いた。
含み損が膨らむたびに、身体がこわばっていく。
「どうか戻ってくれ…」
そう祈りながらも、チャートは無情に下がり続けた。
やがて耐えきれなくなり、損切りを押したときには、大きなマイナスが確定していた。
それまでコツコツと積み上げた利益が、たった一度の判断ミスで消え去ってしまった。
パソコンの画面が暗転し、自分の顔が映り込む。
そこにいたのは、情けなく、疲れ切った自分だった。
「結局、何も変わっていなかったのかもしれない。」
どんなにルールを作っても、守れなければ意味がない。
勝てるようになったと思った矢先に崩れていくこの繰り返しに、心が折れそうになっていた。
「やはり自分には才能がないのかもしれない。」
「本当に勝っている人なんて、実在するのだろうか。」
自分を責め、疑い、落ち込む時間がまた増えていった。
それでも、どこかでまだ諦めきれない気持ちも残っていた。
完全に投げ出してしまうには、まだ心の奥にわずかな希望があった。
もしこの先に、もう少しだけ違う考え方があるなら。
今のやり方とは、何か根本的に別のアプローチが必要なのではないか。
その答えを探し始める日々が、また静かに始まろうとしていた。
第4話に続く
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天空の狭間
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