店頭FXの取引説明書には「業者が相手方」と書いてある ── 公開文書で読むA-bookとB-book
1日の取引高 9.6兆ドル 2025年4月・すべての通貨 | うちスポット 3.0兆ドル 全体の31% | 内部化の割合 80%超 主要拠点・2025年 |
「A-book」「B-book」という言い方があります。広告の言葉としてはよく見かけますが、公開されている文書では、別の言葉で書かれています。内部化(internalisation)です。
この記事が扱うのは、業者の内側を当てにいく話の手前です。国際決済銀行(BIS)と日本の金融庁が公開している文書に、何が書いてあるかだけを読みます。そのうえで、読者が自分の手で測れるものはどこまでかを、はっきりさせます。
店頭FXは、業者が相手方になる相対取引である。注文を外へ流すか自分の帳簿で相殺するかは、公開文書では内部化と呼ばれ、主要拠点で8割を超える。
店頭FX(取引所の外で、業者と直に売買するFX)の取引説明書には、業者が顧客の相手方になる、と書かれています。取引所に注文板があって、そこで他の参加者と出会う形とは、仕組みが違います。
米国の規則は、業者に対して「あなたの取引相手は業者自身であり、これは利益相反です」という趣旨の書面を顧客に渡すよう求めています。仕組みそのものが利益相反を含む、という整理です。
金融庁が2018年6月に公表した「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」報告書は、店頭FX業者が顧客の相手方として、相場変動により顧客に証拠金を超える損失が生じるリスクを負う、という整理を置いています。
BISは、内部化をこう定義しています。時間差で入ってくる反対向きの顧客フローを、インターバンク市場ですぐにヘッジする代わりに、ディーラーが自分の帳簿の上で突き合わせる仕組み。ディーラーは在庫をごく短い時間だけ抱えます。BISの説明では、数分ということも多いとされています。
割合は、この10年で上がり続けています。
| 時点 | 内部化の割合(スポット) | 出どころ |
|---|---|---|
| 2016年 | 63%(全体の加重平均) | BIS四半期報告 2016年12月 |
| 2022年 | 主要拠点でおよそ75〜80% | BIS四半期報告 2022年12月 |
| 2025年 | 主要拠点で80%超(G10はさらに高い) | BIS四半期報告 2025年12月 |
2025年のBISの説明では、ディーラーは顧客取引の8割超を自分の流動性プールの中で突き合わせています。大手ディーラーでは9割に達するという報告もあります。ただしBIS自身が、内部化という言葉には複数の解釈があり、真の市場シェアを測るのは難しい、と断っています。
2025年4月の1日あたりの店頭FX取引高は9.6兆ドル。3年前の7.5兆ドルから28%増えました。うちスポットは3.0兆ドルで、全体の31%です。電子取引の割合は59%で、2022年とほぼ同じ水準にとどまりました。
日本の店頭FX業者についても、同じ構図が公開文書に出てきます。金融庁の2018年の報告書は、カバー取引を行う代わりに業者が自己で抱える「未カバーポジション」について、業者が自ら設ける上限額に大きな差がみられ、上限額が1,000億円を超える水準の業者もある、と書いています。
同じ報告書は、大手業者がプライム・ブローカー(PB)を使ってカバー取引の管理コストを下げるのが一般的になってきたこと、そのPBがG-SIFIs(グローバルなシステム上重要な金融機関)であることが多いことにも触れています。限られたPBがカバー取引を寡占すれば、そのPBに問題が生じたとき市場全体へ影響が及ぶ可能性がある、という指摘です。
同報告書は、店頭FX業者のストレステストを年1回から毎日へ改めることが適当だ、という整理も置いています。これを受けた自主規制規則が2020年1月に施行され、1985年まで遡ったデータで組んだ7つの場面を毎営業日当てる形になりました。
ここまでが、公開文書から読める範囲です。個々の注文がどちらへ行ったかは、この範囲の外にあります。だから、この先は当てにいく代わりに、測れるものを測ります。
内部化の影響は、ディーラーの帳簿の中で終わる話の先にも及びます。BISは2025年の分析で、内部化率が高い市場では、顧客の売買が価格に与える押し引きが和らぎ、気配が安定しやすくなる一方で、取引の持つ情報が市場に出てくる度合いは下がる、と整理しています。
インターバンク市場で在庫を次々に押しつけ合う動き(いわゆるホットポテト取引)も、内部化が進むと減ります。ディーラーが自分の中で相殺できる量が増えるほど、外へ出る量が減るからです。
通貨別に見ると、2025年4月の1日あたりで米ドルが絡む取引は8.56兆ドル(約89%)、ユーロが2.77兆ドル(28.9%)、円が1.61兆ドル(16.8%)です。取引の両側の通貨を数えるため、合計は200%になります。スポットは3年前から42%増えており、これは全体の伸び28%を上回ります。