なぜ人は、FXで負けていると「株では勝ってる」と言い出すのか?
私は彼が嫌いである。
大嫌いである。
彼はクソみたいな人間だ。
いや、人間としては良い人間……かもしれない。
しかし、トレーダーとしては最悪だ。
彼は事業で成功し、私より遥かに多くの資産を持っている。
FXの証拠金も何億円と持っている。
羨ましい限りだ。
腹が立つ。
彼のFXの手法は、実に分かりやすい。
チャンスだと思った時にエントリーする。
含み益になれば、すぐに利確する。
含み損になれば耐える。
とことん耐える。
大量の証拠金に物を言わせ、プラ転するまで耐えるのだ。
損切りという概念は、ほぼ存在しない。
「そのうち戻る」
これが彼の最大の根拠だ。
そして実際、戻ることもある。
100万円の含み損。
200万円。
300万円。
普通なら胃が痛くなりそうな数字になっても、彼は耐える。
「まあ、戻るだろ」
数日後。
本当に戻る。
含み損が消える。
少しだけプラスになる。
すると彼は、すぐに利確する。
「ほらな」
得意げに言う。
「結局、待てば戻るんだよ」
私は思う。
いや。
今回は戻っただけだ。
しかし彼の中では、
「耐えた」
ではない。
「読み切った」
になっている。
ここが厄介だ。
彼には何億円もの証拠金がある。
だから、普通なら損切りせざるを得ないところでも耐えられる。
いや。
正確には、
耐えられてしまう。
しかも彼には、過去に数千万円の含み損を抱えながら、
そこから生き残った実績がある。
あれだけの含み損に耐えた。
それでも最後には助かった。
彼にとって、それは強烈な成功体験になっているのだろう。
しかし私は思う。
それは成功体験というより、
悪い成功体験だったのではないか。
一度それで助かったから、次も助かると思う。
さらに大きな含み損になっても、
「前も戻った」
という記憶が損切りを遠ざける。
数千万円の含み損から生還した経験が、
次の数千万円の含み損に耐える根拠になってしまう。
そしてまた戻れば、
「ほらな。やっぱり待てば戻る」
となる。
悪い成功体験が、さらに強化されていく。
そして、さらに厄介なのが株である。
FXでの含み損が増え続けている間にも、
彼は株では少しずつ利益を得ている。
株が上がる。
利益が出る。
配当も入る。
すると彼は言う。
「ほら、株では勝ってる」
一方で、FXの含み損は増え続けている。
1000万円。
2000万円。
3000万円。
それでも、株では利益が出ている。
おそらく、これも彼には悪影響なのだろう。
FXだけを見れば、明らかに何かがおかしい。
しかし株の利益が少しずつ入ってくることで、
「自分は間違っていない」
という感覚を保つことができてしまう。
FXでは負けている。
しかし株では勝っている。
だから、自分は投資が下手ではない。
そう思える。
株で50万円勝ったからといって、
FXの3000万円の含み損が正当化されるわけではない。
ましてや、FXで損切りしないという判断が正しくなるわけでもない。
だが彼にとっては、株での小さな成功が、
FXでの大きな失敗を見えにくくしている。
過去には、数千万円の含み損から生還した。
今も、株では利益が出ている。
だから、まだ大丈夫。
そう思えてしまうのだろう。
彼は、人にご馳走したがる。
食事に行けば、いつも彼のおごりだ。
彼はいいやつだ。
いつもおごってもらっているので、たまにはと思い、私が言う。
「いいよ。今日は私が出すよ」
すると彼は笑って言う。
「いやいや。ここの食事代なんて、FXの負けに比べたら鼻くそ以下だよ」
自虐ネタまで披露してくれる。
彼の心は広い。
私は調子に乗った。
「じゃあ、おごったつもりでFXを損切りしろよ」
その瞬間、彼の表情が変わった。
さっきまでの気前のいい男はどこかへ消えた。
クソ人間が表に出た。
「いつか助かるからいいんだよ!」
そして続ける。
「それに株では勝ってる!」
出た。
また株である。
株では勝ってると言いながら、彼の主戦場はFXだ。
明らかに、FXのチャートを見ている時間の方が長い。
株は、下がった時にまとめて買う。
しかしFXでは、自分が「チャンスだ」と思えば、
一日に何度でも売り買いする。
しかも、大きめのロットで入る。
それを一日に何度も繰り返す。
一日に何度もチャンスを見つけられる彼には、
きっとすごい才能があるのだろう。
私には短期足のノイズにしか見えないところでも、
彼は迷わずエントリーする。
さすがだ。
彼のチャートは特別だ。
人より多くのトレンド転換が訪れる。
少なくとも、彼にはそう見えるらしい。
波の天井と底も同じだ。
少し反発すれば、
「もう下がらない」
少し下がれば、
「上昇はここまで」
と判断する。
彼は、1分足より早くチャートに反応する。
ローソク足が確定する前に、もう次の結論が出ている。
私にはまだ、
「少し動いた」
ようにしか見えないところで、
彼の中ではすでに相場の局面が変わっている。
たぶん彼は、AIの進化系なのだろう。
私にはノイズにしか見えないものから、
彼は未来を読み取っている。
なお、その未来はよく外れる。
そんな彼には、口癖がある。
「株だけやってりゃよかったんだよ。FXなんかしなきゃ、今頃億万長者だぜ」
彼は笑いながら、何度もそう言う。
私も、そう思う。
では、なぜFXをやるのか。
たぶん、彼にも分かっていない。
いや。
本当は、分かっているのかもしれない。
彼はFXで勝ちたいのだ。
株で勝つより、FXで勝つ方が何倍も嬉しいのだろう。
そして勝った時には、
「やっぱり俺は分かってる」
と思える。
たぶん彼が欲しいのは、お金だけではない。
FXで勝ったという事実そのものが欲しいのだ。
一方で、彼は株に資金を全振りしない。
株で勝っているなら、そこに集中した方がいい。
誰だってそう思う。
なのに、しない。
なぜか。
おそらく彼自身、株で勝ち続けることに、
本当の意味では自信がないのではないか。
値下がりしたところを拾い、うまく戻った。
それを繰り返して利益が出ている。
少なくとも私には、彼が株の勝ち方そのものを、
FXほど信じ切っているようには見えない。
だから、株だけにすべてを賭けることはしない。
ここが面白い。
FXでは待てない。
一日に何度もチャンスを探し、何度も売り買いする。
しかし株では待てる。
下がるまで待つ。
前々から狙っていた株が、大安売りになった時だけ買う。
そうでなければ、買わない。
FXでうまくいかない時、彼は株を物色する。
狙っていた株を見る。
安ければ買う。
安くなければ買わない。
無理に別の銘柄を探すこともしない。
そして、すぐにFXのチャートへ戻る。
おそらく、これが結果的に、彼が株では待てる理由なのだろう。
株を見続けない。
欲しい価格でなければ買わない。
買った後も、ずっと値動きを追い続けるわけではない。
だから、余計なことをしない。
結果として、待てる。
しかしFXは違う。
気になる。
だから見る。
見るから、チャンスらしきものが見える。
チャンスらしきものが見えるから、また入る。
彼は株では、
見ないことで待てている。
FXでは、
見すぎることで待てなくなっている。
皮肉なことに、彼がそれほど気にしていない株では勝ち、
一日中気にしているFXでは負けている。
彼は私によく、こう聞いてくる。
「今、勝ってる?」
「いや、含み損だよ」
そう答えると、彼は少し嬉しそうな顔をして言う。
「そうか。残念だな」
一応、慰めてくれている。
たぶん。
そして自分が負けている時には、こう言う。
「でも俺、株では勝ってるから」
便利な言葉である。
「もう少しFXの含み損が減ったら、決済して引退する」
これも何度も聞いた。
しかし、彼が引退する気配は一向にない。
むしろ、含み損が減ると安心するのか、
決済するどころかポジションを積み増す。
私には逃げ場にしか見えないところが、
彼には新たなチャンスに見えるらしい。
さすがだ。
そして、再び相場が反転する。
今度は、積み増したポジションも一緒だ。
含み損は、積み増した分だけ加速して増えていく。
「もう少し戻ったら決済する」
そう言っていたはずなのに、気がつけば、
以前よりポジションは大きくなり、
含み損も大きくなっている。
引退するために待っていたはずが、
なぜか引退が遠ざかっている。
それでも彼は言う。
「株では勝ってるから」
FXで負けているのなら、見るべきなのはFXだ。
なぜ入ったのか。
なぜ切らなかったのか。
なぜ小さく利確して、大きな含み損だけ耐えたのか。
なぜ逃げ場で積み増したのか。
なぜ一日に何度もチャンスが見えるのか。
そこを見なければ、証拠金が何億円あっても、
同じことを繰り返す。
FXでの負けは、2億円。
株での勝ちは、数千万円。
そして今日も、彼はFXのチャートを見ている。
それでも彼は言う。
「でも俺、株では勝ってるから」
私は思う。
「ふーん、よかったね。」
おわり
【今回の反省点】
負けた時に必要なのは、言い訳ではなく、
「なぜ、その判断をしたのか」を振り返れること。
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