【開発録】なぜそのEAはリアル相場で削られるのか。生存性・論理・現実適応という3軸の設計論
バックテストでは美しい右肩上がりの資産曲線を描いていたEA(自動売買ロジック)が、リアル口座に投入された瞬間、じわじわと、あるいは一気に資金を削られていく。この現象は自動売買の世界で日常的に観測されるが、多くの開発者・利用者はこれをプログラムの「バグ」として処理する。 しかし、プロセスデザインエンジニアの視座から言えば、この破綻の大半はバグではない。相場という現実環境に必ず存在する摩擦、そしてリアル運用に必須の構造設計(プロセスデザイン)が、そもそも設計段階から欠落しているという、必然的な帰結に過ぎない。 本稿では、ラボが開発の土台としている検証思想――EAがリアル相場で機能しなくなる典型的な設計上の欠落と、それを機械的に洗い出すための3つの評価軸――を整理し、開発スタンスとして明文化しておく。
1. 絶対摩擦の欠落――理想環境で組まれたロジックの脆弱性
相場には、スプレッドやスリッページといった物理的な摩擦が必ず存在する。この摩擦を計算に入れず、摩擦ゼロという理想環境を前提に算出された期待値は、リアル環境へ投入された瞬間から内側より削り取られ始める。バックテスト上の優位性が、実弾では跡形もなく消える典型パターンである。
2. リスク管理の非対称性――破綻の先送りという構造
損切り(SL)を置かない、あるいは含み損を抱えたままナンピンを重ねる。これらの設計は、表面的な勝率を高く見せる一方で、一度の相場逆行による口座破綻というリスクを、単に未来へ先送りしているだけの欠陥構造である。敗北を現在のプロセスとして処理せず、将来へ蓄積させる設計は、いずれ必然的に破綻を迎える。
3. 大局的視座の喪失――局所最適とカーブフィッティング
1分足・5分足など短期足のシグナルだけに依存し、日足(D1)や週足(W1)が示す大局トレンドの壁を見ていない設計。あるいは、過去の特定期間だけに数値を合わせ込む過剰最適化(カーブフィッティング)によって、未知の相場への適応力そのものを失っている状態である。局所には強くとも、大局の前では無力な構造と言える。
4. テスト環境とリアルの乖離――ツール仕様への依存
バックテストツール特有のティック補間による約定処理や、遅延ゼロを前提としたミリ秒単位の処理。これらに依存したロジックは、テスト環境では見事な結果を出しても、リアル口座では物理的に実行不可能な「机上の空論」に過ぎない。
5. 検証の物差し――生存性・論理・現実適応という3つの絶対定規
以上の欠落を機械的に洗い出すため、ラボでは持ち込まれたロジックを次の3軸で評価する。
第1軸:生存と摩擦の物理法則 短期・長期の優位性とドローダウンからの回復力があるか、リアルの絶対摩擦に耐える期待値が確保されているか、単一ポジションを原則としたロット・証拠金維持率のコントロールがあるか(ナンピン・マーチンゲールの排除)を確認する。
第2軸:論理の誠実性 過去の特定相場にしか合わないカーブフィッティングの有無、損切りを極端に深くして表面的な勝率を保つだけの構造になっていないか、非現実的な前提や都合の悪いデータの意図的な排除、未来データを参照するルックアヘッドバイアスの有無を監査する。
第3軸:リアル環境への適応と堅牢性 WFA(ウォークフォワード分析)等の耐久検証に耐える論理的根拠があるか、相場の流動性やボラティリティの現実を無視していないか、ミリ秒処理やツール特有の幻の約定に依存していないかを検証する。
この3軸はいずれも、ロジックの良し悪しを主観で判断するためのものではない。あくまで、構造に欠落がある事実を機械的に抽出するための定規である。優劣の判定ではなく、構造上どこに穴があるかを特定すること自体が目的であり、この姿勢こそがラボの検証プロセス全体を貫く前提になっている。
Semura Lab.が定義する開発スタンス
我々Semura Lab.は、バックテスト上の美しい数値そのものには価値を見出していない。追求しているのは、生存性・論理・現実適応という3軸に照らして、ロジックの構造的な欠落を事実として洗い出し、その事実に基づいて堅牢なアーキテクチャへ組み直せるかという一点である。 検証によって欠落が見つかったロジックのすべてを廃棄すべきとは考えていない。骨格に原石(相場の優位性を捉えている可能性)が残っている場合、その骨格を保持したまま、欠落した層だけを再設計するリビルドこそが論理的に正しいアプローチである。 事実を知るための検証と、リアル相場へ適応させるための再構築。この二段構えのプロセスこそが、我々が開発の土台として掲げているスタンスであり、今後のロジック開発においても一貫して貫いていく方針である。