英欧の機関投資家は、いま日本株をどう見ているか?
英欧の機関投資家は、いま日本株をどう見ているか ― 2026年下期・プロの視点をやさしく解説
この分析をひとことで言うと
海外(とくに英国・欧州)のプロ投資家の日本株の見方が、「円安だから割安、とりあえず買い」という単純な発想から、「日本企業が世界のどこで“欠かせない存在”になっているかを見極めて選ぶ」という成熟した発想へ変わった、という話です。キーワードは TOPIX重視・ガバナンス改革・構造的な強み の3つです。
① 日本と英国が“お金の行き来”を加速
2026年6月、英国と日本の間で 180億ポンド規模の大型投資合意 が結ばれました。日本の大手(三菱地所、三井不動産、野村不動産、みずほなど)が英国のインフラや金融、洋上風力にお金を出し、逆にクリーンエネルギー・AI・半導体・量子コンピューターの分野で両国が手を組む、という流れです。英国は日本を「最重要パートナー」と位置づけており、お互いの国に資本が流れ込む動きが強まっています。
ポイント:国同士がお金と技術を融通し合う関係は、その国の株式市場にとって長期の追い風になります。
② 日本株は「日経平均よりTOPIX」が主流に
日経平均が 6万円 の大台に乗るなど、ポンド換算で過去1年に3割超、3年で2倍超という力強い上昇(“隠れた急騰=ステルス・ラリー”)を記録しました。ただ、海外のプロは指数の「中身」を厳しく見るようになっています。
ここで大事なのが 日経平均とTOPIXの違い です。日経平均は「株価の高い一部の銘柄(AI・半導体など)」の影響を受けやすく、値動きが偏りがちです。これに対し TOPIX は「会社の規模(時価総額)」で加重した指数で、日本企業“全体”の底上げやガバナンス(企業統治)改善を素直に反映します。そこで海外勢は、より公平にお金を配れるTOPIX重視に軸足を移しています(TOPIXは株価収益率=PERが17倍台後半、株価純資産倍率=PBRが1.7倍あたり)。
もう一つの変化が 「円安=輸出株高」という単純な図式からの脱却 です。世界の供給網(サプライチェーン)の“急所”を握るニッチな一流企業は、為替の乱高下よりも 構造的なAI・技術の需要で動くフェーズに入ったと見られています。加えて、前回解説した GPIF(年金基金)の国内回帰議論 も、日本株の買い支え要因として注目されています。
③ 日銀は「利上げ」の途中、ただし“やりすぎ”リスクも
日本銀行は2026年6月に政策金利を 1.0% へ引き上げ、半年ごとに0.25%ずつ、最終的に 1.5% をめざす“正常化”を進めています。賃金が上がり、企業の設備投資も増える デフレ脱却=「高圧経済(あえて景気を熱め=Run It Hotに保つ)」 は前向きに評価されています。
ただし懸念もあります。中東の地政学リスクで 原油が1バレル100ドル超 になるような事態と重なると、物価高と景気減速が同時に起きる“スタグフレーション” に陥りかねない、という見方です。2026年の成長率(約0.6%)が下振れする“テールリスク(確率は低いが起きると大きい危険)”として議論されています。
④ 為替(ドル円)と「円キャリー」の巻き戻しに注意
ドル円は 160〜165円 で推移。日米の金利差と米国経済の強さから、日銀が利上げしても円安圧力が続くとの見立てです。短期は162〜165円の上値トライ、中期(2026年末〜2027年)は追加利上げで 150〜158円方向へ調整 を想定しています。
ここで要注意なのが 「円キャリートレード」の巻き戻し(アンワインド) です。円キャリーとは、金利の低い円を借りて、より高利回りの海外資産で運用する手法。日銀の追加利上げやGPIFの国内シフトをきっかけに、この巨大なポジションが一気に手じまわれると、世界のリスク資産(特に米国ハイテク株)にまで動揺が波及する恐れがある、と警戒されています。
⑤ 日本の債券が“利息収入源”として復活
金利が上がったことで、日本国債(JGB)や日本企業の社債(信用力A格以上) が、世界の投資家にとって魅力的な 利息収入(インカム)源 として本格的に見直されています。海外機関投資家向けの新しいファンド(Japan Government Bond Plus など)を通じた投資も広がっています。
さらに、2025〜2026年にかけて 日本企業のドル建て・ユーロ建て社債の発行が1000億ドル規模に急増。国内の金利上昇や変動を避けつつ海外で資金を確保する動きで、これを英欧の年金・保険ファンドが積極的に買い取っています。
⑥ 石油化学など“構造改革バリュー株”への選別投資
エチレンなど基礎化学品の過剰な生産能力を減らし、高付加価値な機能性材料へ移行する日本の石油化学セクターも注目対象です。英欧ファンドは「割安さ」と「構造改革」を きっかけ(カタリスト) としたバリュー(割安株)投資を展開。中国の供給過剰や中東リスクを見極めつつ、安定した現金を生む守りの投資先として選別的に買っています。
海外プロが実際に使っている“2つの戦い方”
英欧のお金の使い方は、はっきり二極化しています。**「市場全体の値動き(ベータ)は、手数料の安いパッシブETF(例:Amundi Prime Japan)で安く取りにいく」一方で、「上乗せの超過収益(アルファ)は、モノ言う株主やイベント狙いに集中投下する」**という形です。用語を補足しつつ、話題のファンドを整理すると――
1. ガバナンス・アクティビスト(=“モノ言う株主”。PBR1倍割れの是正や東証改革を狙う) AVI Japan Opportunity Trust(AJOT)や NicheJungle Japanese Orphan Companies SDG Fund など。注目度が低く割安で現金を貯め込んだ企業に、株主還元やガバナンス改善を直接要求して価値を引き出します。
2. スペシャル・シチュエーション/イベントドリブン(=特別な出来事を収益機会にする) Zennor Japan Fund など。親子上場の解消・M&A・構造改革といったイベントをきっかけに、割安に放置された株へ集中投資します。
3. バリュー・逆張り・エンゲージメント(=割安株を対話で改善) Man Japan CoreAlpha、SuMi Trust Japan Value Focus、Invesco Japanese Equity Advantage、Baillie Gifford Japan Trust、Lazard Japanese Strategic Equity、Thornbridge Nissay Japan Equity Contrarian Value など。市場に見放された割安株を買う伝統的な戦略から、AIや高品質な成長企業を厳選する戦略まで幅広く、いずれも 企業の構造改革やキャッシュを生む力を重視しています。
まとめ ― 「円安だから買い」から「質を見極めて選ぶ」へ
英欧から見た日本株の投資ロジックは、安直な“円安・割安買い”から完全に卒業し、①世界のAI・資本の流れの中で日本企業がどんな“急所(チョークポイント)”を握っているか、②ガバナンス改革でどの個別企業に上乗せ収益(アルファ)が生まれるか――を見極める段階へ成熟しました。インフレと金利上昇という新しい環境の下で、TOPIXを軸にした“質の高い選別投資”が進んでいる、というのが結論です。
私たち個人にとっての示唆はシンプルです。「上がっているから買う」ではなく、「なぜその会社が世界で必要とされ、どう改善しているか」で選ぶ――プロの目線を借りることが、これからの日本株と向き合うヒントになりそうです。
用語ミニ解説
FDI:海外直接投資。企業が国境を越えて工場や事業に投資すること。 TOPIX/日経平均:どちらも日本株の代表指数。TOPIXは時価総額で加重(全体を反映)、日経平均は株価で加重(一部の値がさ株の影響大)。 PER/PBR:割高・割安をはかる代表指標。PERは利益、PBRは純資産に対する株価の倍率。 キャリートレード:低金利通貨(円)を借りて高利回り資産で運用する手法。巻き戻しは相場急変の火種に。 アクティビスト:株を持ったうえで経営改善や株主還元を要求する“モノ言う株主”。 ベータ/アルファ:ベータは市場平均並みの値動き、アルファはそれを上回る超過収益。
本稿は市場分析をわかりやすく再構成したものです。投資はご自身の判断と責任で行ってください。
※本稿は、英国・欧州の投資家目線でまとめた市場分析を、専門用語をかみ砕いて初心者向けに解説したものです。数値やシナリオは分析時点の見立てであり、今後変わり得ます。特定の銘柄・ファンドの売買を推奨するものではありません。